デジタル時代のペーパークラフト

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10. 多面体近似での曲面の表現

多面体の展開図は簡単なアルゴリズムで作成できることを前章で述べましたが、多面体の性質上、滑らかな曲面を正確に表現することはできません。

しかし、下図のように細長い三角形が多数集まって多面体を構成し、互いに隣接する面と面の間に存在する辺の角度がほとんど180度に近い場合、紙の柔軟性を利用して、個別の辺を折り曲げずに、全体で滑らかな曲面を表現することができます。


錐面と柱面を含む形状の多面体近似

紙の柔軟性を利用して曲面を表現するポイントは「細長い三角形が滑らかに繋がっている多面体」で立体を近似することです。このような多面体で近似することで、滑らかな曲面を表現できるだけでなく、全ての辺を1つ1つ折り曲げる作業が無くなり「工作が楽になる」という副次的な効果も得られます。

上の例では、元の形が円錐面と円柱面という「可展面」で構成されているため、このような多面体での近似を容易に行うことができます。

それでは、元の形が可展面でない場合には、どのようにして「細長い三角形が滑らかに繋がっている多面体」で近似することができるでしょうか。これについて1つの解法を示したのが論文「Making Papercraft Toys from Meshes using Strip-based Approximate Unfolding*1」です。

Making Papercraft Toys from Meshes using Strip-based Approximate Unfolding(SIGGRAPH2004)

この節のタイトルは、2004年のSIGGRAPHで採択された論文の1つで、メッシュモデルから滑らかな曲面を持つペーパークラフトを生成するための手法を提案しています。基本的な考え方は前述の通りで、論文の中ではStripと呼ばれる「細長い三角形が滑らかに繋がっている多面体」で元のメッシュ表現された自由形状を近似する方法を述べています。

手法の基本手概念は極めて単純で、下図(左)の赤線で示される「切断線」をメッシュ上に定義し、その線だけを残したメッシュ簡略化を行うことで下図(中)のようなStripの集合を生成するというものです。それぞれのStripは、紙の柔軟性を活かして作成できるので、下図(右)のような近似形状を作成できることになります。


ウサギのメッシュモデルの形状処理

論文自体は著者のページからPDF形式でダウンロードすることができますので、興味のある方はご覧ください。

また、上図のウサギのモデルの展開図はこちらで公開されています。

従来、曲面を平面に展開するためには、錐面や柱面などの可展面で近似するのが「正攻法」として考えられていましたが、この手法は全てメッシュ操作だけで完結してしまい、最終的に得られる形状も多面体のままです。そのため、近似手法も展開図の生成手法も実装が非常に容易だという利点があります。

参考文献・関連サイト

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