本コラムの最後に、今後さらにペーパークラフトの活用の場が広がることを期待して、どのような活用方法が考えられるか提案したいと思います。
まず、最も現実的なのはホビー分野でしょう。現在でもペーパークラフトは純粋なホビーとして多くの方に親しまれています。展開図さえ手に入れば必要なものはハサミと糊だけで、誰でも手軽に楽しむことができます。中には、組立てに数十時間もかかる精密なペーパークラフトも存在し、初級者から上級者まで楽しめる、幅広いジャンルのペーパークラフトが存在します。
特にゲームのキャラクターなどはペーパークラフトと相性がよいと言えます。画面の中で動き回っているキャラクターを実際に手に取れることは魅力が大きいですし、最近では、ほとんどのゲームキャラクターが3Dデータを持っているため、それを元に容易に展開図を作成することができます。
また、以前はペーパークラフトの設計をできる人間が作品を公開するのを待っているだけでしたが、今ではソフトウェアを使ってオリジナル作品を簡単に作ることができますから、既存の作品に飽きたら、自分だけの作品作りにチャレンジすることも可能です。
ホビー以外に考えられる用途の1つとして、販促などの営業ツールとしての利用があります。車やバイク、家屋などは、非常に高価な商品であり、手軽に購入することができませんから、これらをペーパークラフトで提供することは商品を身近に感じてもらう上で、優れたツールとなります。家屋など、顧客ごとに違う形状であっても、最近は建築用CADも3次元化されつつあるので、そのデータを元に展開図を生成することができます。高くて手の出ない商品を、ペーパークラフトで提供する、という手法は今後、普及して行くのではないでしょうか。
次に、知育の用途での活用が考えられます。IT技術の普及と共に従来からの「ものつくり」の大切さが再認識されつつある今だからこそ、実際に手を動かして立体を作り上げるペーパークラフトは情操教育にも非常に有効であると思われます。また、数学の教科書に出てくるような、立方体や角錐などの簡単な立体の表面積を求める問題の解法には、必ず「展開」という概念が出てくるので、その際の教材としても活用できるでしょう。
さらには、工業用品の設計段階での試作品作りや、梱包材の設計、気球やバルーンなどの展開図作成、アパレル系の型紙作成などにも、ペーパークラフト用の展開図作成技術が活用できるのではないかと思われます。
ペーパークラフトに似たものとして、「折り紙」に関する研究は過去に多く存在しますが、ペーパークラフトについては今までほとんど研究対象とされたことが無いようです。それほど研究価値が無いから、と言ってしまえばそれまでですが、今までに人の手によって作られてきた数々の名品は、職人の技術の結晶であり、それをコンピューターで支援しようとした際には、多くの課題があるわけです。これらの課題を解決するためには、たくさんの問題があり、それらは十分研究の価値があるものと思われます。例えば、可展面でない曲面を紙で表現するにはどうすればよいか、単純な円錐や円柱で表現できない可展面はどのように扱うべきか、そもそも組み立てやすい展開図とはどのようなものであるのか、紙の厚みや歪み、強度を考慮するにはどうすればよいか、組み立て手順をわかりやすく提示するにはどうすればよいか、などなど、まだ未解決な問題がたくさんあります。