デジタル時代のペーパークラフト

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8. 可展面への近似

ペーパークラフトは紙を切り取り、折り曲げと貼りあわせで形を作っていきます。紙は「平面」ですから、対象とする立体は平面に展開できる形でなければなりません。ところで、前回のコラムでは、平面に展開できる曲面は可展面に限られ、それ以外の曲面をそのまま展開することはできないことを記しました。はじめから展開可能な曲面の集合で表現された立体であれば問題ないのですが、残念ながら世の中に存在する形のほとんどが展開できない曲面の集合から成っています。

可展面には「錐面」「柱面」「接線曲面」があります。また、曲面でない平面多角形はそのまま平面上に配置できるので、平面多角形の集合で表現された「多面体」も展開可能です。これら以外の曲面を含む立体を展開するには、対象とする立体を可展面の集合で近似する必要があります。

それでは、展開できない立体を可展面の集合に近似するにはどのようにすればよいでしょう。以下では、柱面と錐面の集合に近似する方法と、多面体に近似する方法について紹介します。

柱面、錐面の集合での近似

CGやCADソフトでデザインされる曲面は、B-Spline曲面やベジェ曲面、NURBS曲面などのパラメトリック曲面であることが一般的です。コンピューター設計された曲面を平面に展開することは、板金などによる製造の分野でも大切なことなので、これらを可展面である柱面または錐面の集合で近似する研究は過去に多くなされています*1*2*3

また、コンピュータグラフィックスの世界で有名なUtahTeapotのデータをこれらの面の集合で近似し、それを展開図にすることでティーポットのペーパークラフトを実現した例などもWeb上で紹介されています*4


ティーポットのペーパークラフト*4

しかし、これらの近似はパッチ単位で行われることがほとんどです。複雑な形状を表現するには多数のパッチが用いられるため、1つのパッチを複数の可展面で近似する方法では、細かい曲面が多数できてしまう問題があります。また、パッチの境界をうまく接続する近似を実現するのは困難です。さらに、このアプローチでは測定点群を元に生成されたメッシュモデルなどへは適用できないという問題があります。

パラメトリック曲面以外にも適用可能なように、点群から可展面を生成する研究もされていますが*5、まだ極めて単純な形状にしか適用ができないようです。


点群の錐面での近似(出展: [Chen1999]*5

このように、柱面、錐面の集合で任意の曲面を近似し、自然物のような複雑な形に柔軟に対応するには、まだ大きな課題が残っています。

多面体への近似

曲面がパラメトリック曲面で表現されている場合、各パラメータについて一定間隔の値に頂点を設け、それらを直線で結ぶことで、容易に四角形の集合で近似することができます。これらの四角形は平面でないことがありますが、それらを対角線で分割することで三角形の集合とすることができます。三角形は必ず1つの平面上に乗るため、この方法でパラメトリック曲面が平面多角形の集合で近似されることが保証されます。

このように三角形の集合で表現されたモデルを「三角形メッシュモデル」と呼びます。つまり、対象とする形状を三角形メッシュモデルで近似できるのであれば、それらは展開可能ということができます。CGやCADの世界では形状を三角形メッシュで表現することは古くから行われてきたことであるため、たいていのソフトウェアに、形状を三角形メッシュとして出力する機能が備わっています。境界表現でないボクセルデータを三角形メッシュに変換する手法も存在し、そのうちの1つ「マーチングキューブ法」は有名です。

多面体への近似のメリット

三角形メッシュは多面体の1つですから、対象形状を三角形メッシュで近似表現できればよいことになります。三角形の集合で形を表現することはCGの黎明期から行われてきたことなので、既に技術が確立されています。また、柱面や錐面への近似の際に出てくるような難しい数学の話は無く、実装が容易というメリットがあります。また、最近ではメッシュの簡略化の手法も各種提案されているため、面の数(≒工作の手間)とのトレードオフで、任意の精度を実現することができます。

多面体への近似のデメリット

紙は最初は平面ですが、その柔軟さから、曲げることによって滑らかな曲面を表現できます。作家の作るペーパークラフト作品には、この曲面を形の表現に活かしたものが多数見られます。一方、多面体は平面多角形の集合ですから、曲面をまったく含みません。対象とする形を多面体で近似してしまうと、紙ならではの表現力を活かしきれないというデメリットがあります。

参考文献・関連サイト

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