デジタル時代のペーパークラフト

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4. ペーパークラフトのためのパソコンソフト

数え切れないほど様々な種類のパソコンソフトが毎年発売されている一方で、ペーパークラフト用のパソコンソフトというものは、(筆者の知る限り)数年前まで存在しませんでした。まだまだペーパークラフトの認知度は低いようで、さらに「自分でペーパークラフトを設計したい」というニーズもそれほど無かったためか、パソコンでペーパークラフトの設計を支援しよう、という発想自体が無かったように思います。

ところが、現在では「ペパクラデザイナー(多摩ソフトウェア)*1」をはじめ、いくつかのソフトウェアが存在し、パソコンを用いたペーパークラフトの設計も一部の人々の間で普及しつつあります。現在はまさにペーパークラフトの設計手法の過渡期であると言えるのではないでしょうか。

汎用ソフトウェアを用いた設計

ペーパークラフトのデザインを行っている方々のほとんどが、実際に紙を手にして試行錯誤を行い、完成した形を元に最終的な展開図を決定することが多いようです。得られた展開図は、スキャナーでパソコンに取り込み、Illustrator*2 や VectorWorks*3 のような、広くデザイン業界で使用されている2次元のドローソフトを用いて仕上げを行うことが一般的です。中には、CADソフトを用いて展開図を作り出す方法も行われています。CADソフトを用いた展開図の設計手法については、Tanaka氏のホームページに詳しい説明が掲載されています*4

ドローソフトやCADソフトなど、既存の汎用ソフトウェアを使うことでも、展開図設計のある程度の作業はデジタル化することができます。しかし、実際に最終的な形を決定する過程では、紙を用いた試行錯誤を伴う、アナログな作業を避けることはできなかったり、ペーパークラフトに特化したスムーズな操作が難しかったり、まだ課題は残されています。

ペパクラデザイナー

2002年夏、一般家庭向けのパッケージソフトとしては、オリジナルペーパークラフトの設計支援を目的とした初めてのソフトウェア、「ペパクラデザイナー」が発売されました。このソフトは今までオリジナルのペーパークラフトを作ったことの無いユーザーを対象に、簡単な操作で展開図を作成できる機能が盛り込まれています。

     
ペパクラデザイナーのパッケージとスクリーンショット*1

ペパクラデザイナーを用いたペーパークラフト作成の流れは次のようになります。

  1. 3DCGソフトウェアを用いて、ペーパークラフトにしたい形をポリゴンモデルとして作成する
  2. ポリゴンモデルをペパクラデザイナーに読み込み展開図を自動作成する
  3. 必要に応じて展開図を編集する

展開図を作成するまでの流れは非常にシンプルです。パソコンで作った立体データを自動で展開でき、必要に応じて編集できるという、ペーパークラフトに特化した機能が実装され、従来の汎用ソフトウェアを用いた方法とは一線を画すものとなっています。

しかし、一般的に「3DCGソフトを用いて目的のポリゴンモデルを作る」ということが容易ではなく、最初のハードルが高い、という問題点が残っています。ペパクラデザイナーには、初級者向け3DCGソフトとして、その簡便なインターフェースが評価されている「六角大王Super*5」が同梱されていますが、それでも、初めて3DCGに触れるユーザーにはなかなか敷居が高いようです。

その一方で、既存の3DCGユーザーからは「今までパソコンの画面で眺めることしかできなかったオリジナルモデルを実際に手で触れられるペーパークラフトにできる」と評価され、今までペーパークラフトに興味の無かった人たちからの関心も集めています。

また、ペパクラデザイナーには無料の「ビューワー」が存在し、ペパクラデザイナーを持っていないユーザーでも独自形式のファイルを閲覧・印刷できるようになっています。ビューワーで閲覧できるデーターには、展開図だけでなく3Dデーターも付属するため、完成形状を確認しながら組み立てを行え、さらにインタラクティブに完成形状と展開図の対応を確認できるという、従来のPDFなどによる展開図だけの情報には無い利点があります。


ペパクラビューワーの画面。ペパクラデザイナーとほぼ同じインターフェースで3Dデータと展開図を閲覧できる。選択したパーツが3Dデータと展開図の両方で赤く表示されている。

紙龍

1999年に発売された書籍「電子ペーパークラフト 紙龍*6」には、パソコンでペーパークラフトの設計を行えるソフトウェア「紙龍」が付属していました。 執筆時現在、残念ながらこの書籍は絶版になっており、インターネット上でのダウンロード販売も一時停止されているため*7、このソフトを手に入れることはできなくなっています。


電子ペーパークラフト 紙龍*6

紙龍では、立方体に代表される「箱型」の要素をブロックのように複数組み合わせて形を作り、それぞれの箱ごとの展開図を出力します。組み立てるときには、まず初めに「箱」を個別に組み立て、それらを貼り合わせることでより複雑な形を作ってゆくことになります。この「箱」はもちろん編集できるのですが、作成できる形はこれら「箱」の集合であるため、どうしてもカクカクしたものになってしまいがちです。

しかしながら、パソコンでペーパークラフトを作る際に一番のハードルは「完成形をどのようにしてパソコンに入力するか」という点なのですが、入力が「箱」に限られている分、操作が非常にシンプルで子供でも簡単に楽しめる優れたものとなっています。

     
紙龍の編集画面と完成模型の例*7

abCraft

abCraft*8は、エービーネット社から、工務店・建築会社向けに発売されている業務用のペーパークラフトソフトウェアです。施主へのノベルティーとして建築物の模型を用いる営業手法を提案し、そのためのツールとして abCraft は位置づけられています。

特に建築物の模型作成に特化した機能が盛り込まれ、間取り図から迅速に立体データを構築する「エービープラン」、模型用の展開図を自動で作成する「エービークラフト」、展開図の編集を行う「エービーペイント」という3つのソフトから構成されています。

          
abCraftのパッケージと画面、および出力される展開図の例*8

また、グラフテック社のカッティングプロッタを用いることで、展開図の切り出しまでがサポートされます*9。従来、個別の家屋の模型を作るのには非常にコストがかかるため、なかなか手軽な営業ツールとして使えるものではなかったそうですが、この商品を用いることで、間取り図を入力として紙の模型を迅速に作れるようになります。家屋という大きな買い物に対する営業のきっかけとして、手軽な紙模型を用いることは興味深いアプローチだと思います。


クラフトカッターシステム(グラフテック)*9

TouchCAD

TouchCAD*10は、スウェーデン製のCADソフトウェアです。一般的なCADソフトとしての機能だけでなく、工業製品への用途を考慮した展開図作成機能が実装されているところに特徴があります。パラメータ値の設定によって、伸びや縮み、歪みが許容される板金用の展開図の出力が可能であり、また歪みを許容しないことでペーパークラフト用の展開図も生成できます。ただ、のりしろの生成やテクスチャを含めた展開図の生成などはできないようです。

1つのソフトウェアにモデリング機能と展開機能が搭載され、形の設計と展開図の生成を並行して行うことができます。残念ながら日本語版は存在せず、英語でのユーザーインターフェース、ドキュメントを理解する必要があります。

     
TouchCADの画面*10

参考文献・関連サイト

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